アーク溶接鋼管の製造方法・特徴・用途など
ここでは鋼管(パイプ)の製造体系の一種であり、パイプの長手方向の継目(シーム)部分を、アーク溶接により溶接接合してパイプに成形するアーク溶接鋼管について解説しています。
アーク溶接鋼管には、その溶接線の形状により、ストレートシーム鋼管とスパイラルシーム鋼管とがあります。
■ アーク溶接鋼管の特徴・用途など
アーク溶接鋼管は、鋼管の製造方法の一種であり、一般には鋼帯(コイル)や鋼板を円筒形に成形し、シーム部をアーク溶接によって溶接接合してパイプに成形した鋼管です。
使用する素材の形状(鋼帯或いは鋼板)や、パイプ形状への成形の方法、接合法(アーク溶接の方法)などによって、幾つかの種類に分類されます。
炭素鋼鋼管や低合金鋼鋼管、ステンレス鋼鋼管など多くの材種のパイプ製造に広く適用され、口径サイズとしては中径配管から大口径配管が主に製造されていますが、最大で外径が2,500mm程度まで大口径配管が製造可能な鋼管メーカーもあります。
アーク溶接鋼管の用途としては、各種配管用鋼管、石油、ガスなどを輸送するラインパイプ、水道用鋼管(塗覆装鋼管)、一般構造用鋼管、排泥管、鋼管杭、鋼管矢板、海洋構造物用鋼管、モルタルライニング鋼管など、幅広い用途に用いられます。
- UO鋼管(UOE鋼管)
- 主に厚板の鋼板を専用のUプレス、Oプレスを用いて円筒形状に加工し、丸めた鋼板の両端をアーク溶接(サブマージアーク溶接)により内外両面から溶接接合して製造される配管です。
中径から大口径配管に用いられ、大径管としては寸法精度は良好で、大量生産にも比較的対応できる鋼管です。 - スパイラル鋼管
- 素材には鋼帯(コイル)を用い、コイルを連続的に引き出しながら、成形ロールで鋼帯をスパイラル状(らせん状)に曲げて円筒形状に加工し、継目を内外両面からアーク溶接(サブマージアーク溶接)により溶接接合して製造される配管です。
生産性は良く、大量生産に向いていて、土木・建築用の鋼管などとして多く用いられます。
鋼帯をらせん状に巻いてパイプに成形しているため、溶接線もらせん状に発生することから、溶接量は他のアーク溶接管に比べて格段に多くなります。 - 板巻鋼管(ベンディング鋼管)
- 主に厚板の鋼板を専用の成形プレスで円筒状に加工し、両端をアーク溶接(サブマージアーク溶接)により内外両面から溶接接合して製造される配管です。
円筒形へ加工する方法には、上述のプレス方式の他に、最初に端曲げプレスで鋼板の両端を円形に加工し、つづいてロールにより完全な円筒形を整えるベンデイング・ロール方式もあります。
基本的に小ロット生産で生産性は低いですが、製造可能範囲内なら柔軟な寸法設定が可能であり、大径厚肉品など特殊な管の製造に用いられます。
アーク溶接鋼管が適用されるJISの配管には、以下のJIS配管などがあります。
- JIS A 5525 鋼管ぐい
- JIS A 5530 鋼管矢板
- JIS G 3443-1 水輸送用塗覆装鋼管−第1部:直管
- JIS G 3444 一般構造用炭素鋼鋼管
- JIS G 3446 機械構造用ステンレス鋼鋼管
- JIS G 3447 ステンレス鋼サニタリー管
- JIS G 3448 一般配管用ステンレス鋼管
- JIS G 3457 配管用アーク溶接炭素鋼鋼管
- JIS G 3459 配管用ステンレス鋼管
- JIS G 3463 ボイラ・熱交換器用ステンレス鋼鋼管
- JIS G 3464 低温熱交換器用鋼管
- JIS G 3466 一般構造用角形鋼管
- JIS G 3468 配管用溶接大径ステンレス鋼管
- JIS G 3474 鉄塔用高張力鋼管
- JIS G 3475 建築構造用炭素鋼管
アーク溶接鋼管の製造方法を表す記号としては、以下の例のように、『A』を付記して区別します。
- 自動アーク溶接鋼管-A
- 冷間仕上自動アーク溶接鋼管-A-C
- 溶接部加工仕上自動アーク溶接鋼-A-B
■ アーク溶接鋼管の製造方法・製造工程
アーク溶接鋼管には、上述のように用いる素材の違いやパイプ形状への成形方法の違いなどにより、UO鋼管(UOE鋼管)スパイラル鋼管、板巻鋼管(ベンディング鋼管)などがありますが、それぞれの製造方法の概略の一例を模式的に示します。
- UO鋼管(UOE鋼管)
- 鋼板をUプレス、Oプレスにより円筒形状に加工後、両端をアーク溶接(サブマージアーク溶接)により内外両面から溶接接合して成形。
【UO鋼管(UOE鋼管)の製造方法・製造工程の一例】
- スパイラル鋼管
- 鋼帯(コイル)を連続的に引き出し、成形ロールにより鋼帯をらせん状に曲げて円筒形状に加工後、継目を内外両面からアーク溶接(サブマージアーク溶接)により溶接接合して成形。
【スパイラル鋼管の製造方法・製造工程の一例】
- 板巻鋼管(ベンディング鋼管)
- 鋼板を専用の成形プレスで円筒状に加工後(プレス方式)、若しくは、端曲げプレスで鋼板の両端を円形に加工してからロールにより円筒形に仕上げた後(ベンデイング・ロール方式)、両端をアーク溶接(サブマージアーク溶接)により内外両面から溶接接合して成形。
【板巻鋼管(ベンディング鋼管)の製造方法・製造工程の一例】
■ サブマージアーク溶接
上述のUO鋼管(UOE鋼管)、スパイラル鋼管、板巻鋼管(ベンディング鋼管)のシーム部の溶接に用いられるサブマージアーク溶接は、アーク溶接(アークを熱源とする溶接)の一種であり、自動アーク溶接(溶接ワイヤの送りが自動的にでき、連続的に溶接が進行する装置を用いて行うアーク溶接)に用いられる溶接です。
サブマージアーク溶接は、溶接線上にあらかじめ粒状のフラックスを散布しておいて、その中に溶接ワイヤを自動的に送り込み、フラックス中において溶接ワイヤと母材との間のアークから生じるアーク熱で溶接する方法です。
サブマージアーク溶接において、フラックスはアークと溶接金属を覆って大気の侵入を妨げて、フラックス自身もアーク熱で溶融してスラグを形成し、溶融金属を覆って大気を遮断します。
サブマージアーク溶接の最大の長所としては、大電流での溶接や多電極溶接ができることにより、他の溶接方法に比べ、溶着速度が非常に高いことがあります。
そのほかにも、ヒューム、スパッタ、アーク光の発生がほとんどなく、溶接時の風の影響も受けにくいといった長所があります。
短所としては、溶接姿勢が下向、水平横向に限られる、設備費が高いことなどが挙げられます。
英語では、
submerged arc welding
と言われます。
【サブマージアーク溶接のの参考図】